ERPとは?
ERPとは「Enterprise Resource Planning」の略で、日本語だと「企業資源計画」と訳されます。
簡単にいうと、企業の経営資源を無駄なく活用して、効率的な経営体制を構築しようという考え方のことです。
日本でERPが広まったのは、1990年代後半から2000年代にかけてです。
しかし、欧米ではもっと早く、1973年にドイツのSAP社が、世界初のERP「R/1」をリリースしています。
当時、会社全体で1つのシステムを持つのは珍しく、営業部、調達部、経理部などの各部門が、その部門独自の管理システムを別々に使用するのが一般的でした。そのため、部門間の情報共有が難しく、同じデータを複数の部門が二重で手入力するなど、非効率さが目立ちました。そこで登場したのがERPです。ERPは、分散していたシステムを1つにし、あらゆるデータを一元管理することで、業務の効率化や、生産性の向上を可能にしました。
90年代は、日本の商習慣に合ったERPがなく、国内での普及はすすみませんでしたが、会計制度のグローバル化などの後押しを受けて徐々に導入が広がった結果、昨今では、大企業のみならず、中小企業にも裾野が広がりつつあります。ちなみに、2020年のERPの国内の市場規模は124億3,000万円ともいわれています。(ERP市場動向に関する調査(2020年)株式会社矢野経済研究所)
クラウドERPとオンプレミスERPの違い
ERPは、そのプラットフォーム別に、主に「クラウドERP」と「オンプレミスERP」に分けられます。
それぞれの特徴を見ていきましょう。
クラウドERPとは
クラウドERPとは、クラウド上に構築されたシステムを利用するタイプのERPです。インターネットを介して接続するため、自社にサーバーを設置する必要がなく、サーバーの導入や管理に必要なコストを削減できるほか、システムのアップデートやメンテナンスを、自社で行わなくても良いというメリットがあります。
一方、料金形態は月額課金制か継続課金性のものが多く、毎月のランニングコストが発生するというデメリットもあります。また、システムのカスタマイズ性に乏しく、自社の業務をシステムに合わせて調整する必要もあります。
オンプレミスERPとは
オンプレミスERPとは、サーバーを自社に設置して構築するタイプのERPです。なお、オンプレミス(On-premise)には、「建物の中」や「構内」などの意味があります。カスタマイズ性が高く、自社の事業に適した柔軟なシステムを構築できるのがメリットです。また、クラウド型に比べてセキュリティ面に比較的強く、また、オンラインでもシステムに接続できるという利点もあります。ただし、買い切り型のため、初期費用は高額になります。また、サーバーのメンテンナンスやシステムアップデート、トラブル対応まで全て自社で対応しなければならないという点もデメリットです。
ERPの主な機能
ERPは、社内の業務に合わせてさまざまな機能を提供しています。ここでは、その主要な機能について見ていきましょう。
なお、提供できる機能は製品により異なります。自社にどのような機能が必要なのか、導入前によく検討することが大切です。
倉庫・在庫管理
倉庫・在庫管理機能とは、商品の在庫状況や入出庫情報を、一元的に管理する機能です。販売部門、物流部門、生産部門と、社内のあらゆる部署からの問い合わせに対し、情報をリアルタイムで共有できるほか、複数の倉庫・店舗間の移動中のトラッキング、入出荷時の伝票入力の簡略化、棚卸の転記・計算作業の自動化などの機能を合わせ持ち、仕入から出荷までをスムーズに管理することができます。
販売管理
販売管理機能とは、販売にかかる一連の業務を統合的に管理する機能です。販売活動は、見積もり、受注、出荷、請求、入金と多岐にわたります。それらを一元管理することで、営業活動をスピーディーにすすめることが出来ます。さらには、売上実績や予算との対比、店舗別の売上状況など、販売データを総合的に分析する機能を備えるものもあり、経営戦略の構築に役立つことが期待されます。
プロジェクト管理
プロジェクト管理機能とは、プロジェクトの計画、スケジュール管理、進捗確認を行うための機能です。プロジェクトとは具体的に、システム開発、広告制作、建設・製造、コンサルティングなどが挙げられます。プロジェクトごとのタスク進捗状況の可視化や、原価計算の効率化が実現できることから、近年導入する企業が増えています。
財務・会計管理
財務・会計管理機能とは、財務諸表の作成や、管理会計を実施するための機能です。他の機能と連動して、取引の仕分けを自動的に行うことで、経理業務の負担を大幅に減らすことが出来ます。また、管理会計の分野では、自社の情報を一元管理するというERPの強みを活かし、必要な販売データや在庫状況、プロジェクトの進捗を俯瞰して見ることで、経営方針の策定に資する情報の提供につながります。
人事管理
人事管理とは、従業員の個人情報から、異動、給与計算、退職に至るまで、一連の人事情報を管理する機能です。従業員の勤怠や、複雑な労働形態の管理を担う、人事部門の負担を減らす目的で導入されます。従業員のスキルや保有資格、研修の受講状況を管理する機能をそなえるものもあり、適材適所の人材配置に向けた活用も期待されます。なお、近年はマイナンバー管理に特化した製品が多く見られます。
ERPを導入するメリット
ERPの大きな特徴は、社内のあらゆる情報を一元管理している点です。
これにより、以下のようなメリットをもたらします。
情報を一元管理できる
ERPは、企業内に散らばるあらゆる情報を、瞬時に一箇所に集めることが出来ます。従来のシステムでは、各部門ごとに情報を個別に管理していたため、業務が煩雑になり、情報共有に時間がかかるという問題がありました。ERPの導入により、この煩わしさから開放され、不必要な業務を削減し、コスト削減につなげることが出来ます。
作業効率、業務効率があがる
部門間の連携が強化されるため、より少ない労力で成果を生み出すことが可能になります。例えばERPでは、1つのデータを統合データベースに入力すると、全ての関連データが自動で更新されます。これにより、同じ内容のデータを別部門が個別に入力する手間が省けますし、入力ミスも改善されます。このように、データを連携管理することで、一連の業務をよりスピーディーに、効率よく進めることが出来るのです。
経営状況の見える化
ほとんどのERPには、経営分析機能が搭載されています。これはERPに蓄積されたデータを瞬時に集計、グラフ化する機能で、経営における意思決定の迅速化に大きく役立ちます。特に変化の激しい現代の市場において、経営判断の遅れは販売機会の逸失や、損失の発生につながりかねません。経営状況の見える化を行うことで、それらのリスクを回避し、的確な経営判断を行うことを可能にします。
ERPを導入するデメリット
これまで、ERP導入によるメリットを見てきましたが、その裏には当然デメリットが存在します。より自社に合ったシステムを導入するために、デメリットを含めた検討を行うことが大切です。
費用
ERPの導入にはある程度のコストがかかります。導入するシステムの規模によっては、初期費用が高額になることもありますし、維持・管理のためのランニングコストも定期的にかかります。ERPの導入にあたっては、費用の試算を十分に行い、それを上回る収益が回収できるか?業務改善効果が期待できるか?等、費用対効果についての検討を、慎重に重ねる必要があります。
従業員の教育
ERPは業務を効率的にすすめるためのツールですが、従業員が正しく使いこなせなくては意味がありません。ERPの導入目的を明確にするとともに、業務フローを明確に定義し、従業員に向けたマニュアルを整備することが大切です。従業員への周知を徹底することで、導入後の運用もスムーズにすすむでしょう。
導入まで時間がかかる
ERPを提供するベンダーは多岐にわたり、自社に合ったシステムを選定することは大変な労力を要します。また、システムが変われば業務フローにも影響が出るため、その検討にも時間を要します。各ベンダーには導入プログラムが用意されていますし、ERPの導入コンサルタントなる職種も存在しています。分からないことがあれば、専門家の知識を借りて、ひとつひとつ解決していくのが良いかと思います。
まとめ
ERPは、企業の持つ経営資源をトータルで管理することで、業務を効率化し、迅速な経営判断につなげることを可能にします。しかし、ERPの機能、形態は多岐にわたるため、導入にあたっては慎重な検討を重ねる必要があります。変化の激しい現代のビジネスにおいて、DXの活用は欠かせません。自社の業務内容や課題をよく洗い出し、最適なERPを導入することで、利益のさらなる拡大につなげてください。